館長コラム◆◆  


特別コラム 
このコラムは新年1月3日、日本館稽古始での本間館長のスピーチをHP用に整理して書かれたものです。

■命の価値と支援の差 日本館AHAN活動の指針

ロダンの「考える人」の作品に向き合う様に、考え込む三つの銅像がいつのまにか置かれているそうです。そばでよく見るとそれはキリストさんとマホメッドさんと釈迦さんであったとの事。3人とも苦悩に満ちた顔をしていたそうです。
 こんな冗談も言いたくなるほどスマトラ沖巨大地震津波の被害は多くの人命を奪ってしまいました。世界中が救援に立ち上がり、各国の軍隊すら動員して命の救済、二次感染の防止、インフラの復旧に懸命になっています。犠牲となられた方々には哀悼の意を表すものです。  
 
 ところで、イラクとアフガニスタンでは幾人の民間人が戦争の犠牲となったのでしょうか。双方の軍人を含めるとこの死者数も莫大な数になる事でしょう。
 自然災害で亡くなった命と、人間が放った弾丸で亡くなった命、命の価値は異なるものではありませんが、命を失った原因は自然災害と戦争、全く異なります。罪のない一般市民が爆撃によって命を失えば当然、家族はその加害国の人間や国を呪う事でしょう。爆撃された国はそうさせる事によって国体を維持しようとしますから。
 津波という自然災害で亡くなった方の家族は国の防災体制を非難はするでしょうが、戦争の犠牲者家族のように他国の人間を恨むという事はないでしょう。
 津波の被害者家族には救援の為の復興資金が大きな力となり感謝が生まれる事でしょう。ただし援助の裏に、復興事業への参画や其の資金目当ての支援国間や被害国間の対立が生じる様なことが無ければの事です。
 信仰深い国々の民である今回の被害者国には水や食料,医療品だけではなく、長い間その国で育まれた信仰の拠り所を蘇えらせてやる事が、安らぎと秩序ある復興の大きな支援の一つとなると私は考えます。キリストさんもモハメッドさんも釈迦さんも、その他諸々の神々も考え込んでいる場合ではなく、直ぐにでも担当区域に戻って戴きたいのです。
 他方、今この瞬間にも増え続けている戦争被害者たち。水も食料も、医療品も充分に与えられず、一部の救済団体の僅かな支援にすがり空を睨んで、復讐を誓って生きている多くの人たち。正義を振り回し、さらにそれに対して正義で応じる。正義という名の戦い。其の根底にある宗教の対立。この戦争から宗教を引き抜けばはるかに早く平和が訪れる事は誰しもが認める事です。キリストさんもモハメッドさんも釈迦さんも、その他諸々の神々も真剣に考えて戴きたいのです。
 
 津波被害に対しその拠出額を競うように支援しているのは素晴らしい事ではあるけど、戦争殺戮行為批判の緩和剤となる事のほうが私には不安なのです。また復興という大義の為、支援国ペースで物事が進み、現地人の経験、習慣が無視されることも心配なのです。あくまでもこの支援は国連を中心として被災国の声を尊重して行われるべきでしょう。

米国で911の起こった後、日本館が支援活動をしている団体の一つ、デンバーレスキュウミッションへの民間からの寄付が大きく減りました。それは食料や衣類に至るまで影響を受けました。国民の多くがそちらを向いたからです。
毎年12月には数百個の冷凍七面鳥がミッションに寄付されます。ハロウーイン、感謝祭、クリスマスと宗教心が芽生えるからでしょうか。しかし1月に入ると激減しその後は民間の食材卸会社の寄付にたよって維持されているのが例年の現状です。恐らく今年はかなり苦しくなる事でしょう。
 戦争被害者や内戦などによる難民、そして何よりも町の弱者たちの支援が緩むのは避けなければなりません。

 津波被害後、私の門下生の数人からAHAN活動として義援金集めの講習会をやらないかと聞かれました。私は「被害者に対して哀悼の心は充分にあるけど、私たちには継続的に行なっている幾つもの支援活動がある。限られた予算で運営している私達までが、横を向いてしまってはならない。確かにタイミングよく寄付金集めや、チャリティー講習会をすればパセティブなのだが、そんなことは普段何もしていない合気道団体に任せればいい。支援とは一時の感情ではなく、継続し其の支援が効果をなしているか確認するまでの事。勿論個人的に赤十字などに寄付する事は素晴らしい事だ。私個人も当然寄付をする」と答えました。
 津波被害者の為の援助金が、今継続されている支援事業から捻出されるのではなく、新たな資金として調達されなければ必ず歪がやってきます。
 
 日本館AHAN活動は金銭物品の支援が活動の中心ではありません。我々が実践活動する事によって多くの合気道家に「わかち合い、気使い合う心」つまりは開祖の心「合気道は愛なり」の実践を啓蒙する事に大きな目的があります。
少しでも多くの合気道家や団体が独自でも良いから立ち上がれば、AHANの目的が成功しているのです。「日本館のような小さな個人道場が可能で、大きな組織を持つ合気道団体、それを牛耳る師範が出来ないのはやらないだけの事であり、自身が肥え、他の空腹を知らないからだ」と私どもは常に厳しく訴えています。
 この歴史上に残る大災害を機に、多くの合気道家、そして其の頂点に君臨する指導者たちが行動を起こす事を期待するものです。
 日本館AHANでは、国や企業が大股で乗り越えてしまった方々への支援を、積極的に支援し、継続し、拡大しています。2005年、今年も皆様のご理解ご支援をお願いします。

尚、日本館AHANは今回の津波に関する募金行為は一切しておりません。
寄付希望者は、最寄の赤十字社に直接お願いします。

       平成17年1月3日
日本館 館長 本間 学 記

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