館長コラム◆◆  

■モロッコで出会った女性たち

旅の目的、人それぞれ。習慣の異なる国に自分を沈め、これまでの価値判断を考えてみる。それも旅の大切な事と私は考えます。

突然のチャンスがやって来ました。日本館AHANの活動でモロッコへの同行を要請されたのです。在米20年で初めての海外旅行。最高のお話しに、夫や子どもに尋ねたら「いいじゃない」との事。こうして私のモロッコ訪問が決まりました。今回は女性の立場から、驚きと感激だらけのモロッコ訪問をレポートしたいと思います。

 私のモロッコでの最初の出会いは、北海道出身の日本人女性の佐野照代さんでした。もうズーっと前から知り合っているような気さくな方で、モロッコ人のご主人の間に4人のお子様がおられます。モロッコに住んで25年、現在はモロッコの首都、ラバトの中心街でレストランを営まれ、アラビア語フランス語を難なくこなし、英語もなかなか。空手が初段、合気道も最近始めたとの事。小柄な方なのに驚くべき元気印。「しっかりとモロッコ」の照代さん、苦労は並大抵ではなかったはずなのに、笑顔の爽やかな明るい女性でした。
 日本人にとって比較的恵まれた環境のアメリカ生活をしてきた私は、照代さんとは同じ祖国を離れ、遠い海外で暮らす者同士ですが、海外生活の苦労にも大きな「違い」があることに気がつきました。アメリカに生活し、子どもを二人育て、とても「えらい事」をしていたつもりの私にとって、私自身を見つめる素晴らしい出会いとなりました。

 モロッコ女性との出会いは交流稽古のときでした。150人あまりの参加者に大人の女性は5人、そのうち4人は髪をスカーフで覆っていました。宗教上、まだ男性と供に、しかも日本の武道などを稽古するには多くの障害があったあったはずです。そのためか稽古は真剣で、私もパートナーとなりましたがかなり長く稽古をされた方と感じました。きっと高い理想に心を置いて合気道の修行をされているのでしょう。
 彼女達の稽古態度にくらべ、私は云わば「主婦の楽しみ」。その国の生活習慣、経済、宗教によって、合気道と向かう姿は全く異なる事を実感しました。
 彼女たちの中には、近いうちに女性指導者として、モロッコ女性合気道の発展に活躍する方も現れる事でしょう。活躍を期待したいと思います。

 モロッコ合気道連盟の元会長ムバレック.アラウイ先生の奥様たちにお会いしました。そうです「たち」です。アラウイ先生には奥様がお二人。お会いしたのはアラウイ先生のご自宅での夕食会のときでした。
 ご自宅は「メデイナ」といわれる旧市街の中にありました。無愛想な外壁と頑丈な扉しか並ばないこの複雑な小路の奥に想像を絶する素晴らしいご自宅がありました。扉が開き中に入ってビックリ、手の込んだタイルが床から天井まで張られ、天井からは大きなシャンデリアがーー。モロッコ風の豪華な長いすが部屋を囲み、男女別の丸いテーブルがあり、伝統料理クスクスなどで私達を持て成してくれました。金曜日の料理であるクスクスを、日曜日のこの日に私達のために特別作ってくれたものでした。
 男女は別々でしたが、其々のテーブルからは賑やかな話し声、そして笑い声が絶えませんでした。みんなこの集まりを本当に楽しんでくれていたようでした。迎えられた私達にとって、これこそ最高の歓迎でした。

 そんな賑やかさの中で奥様が結婚式の写真を持ち出して来てから会話はさらに賑やかに。花嫁衣裳の事、装飾品の事、そして子供たちの事。これは万国共通のようです。会話が子どもの事になったとき、そこに2人目の奥さんが居ることを知らされました。1人目の奥様は優しくふくよかな、とてもいい感じの方で、全ての子供達の暖かい母でした。2人目の奥様も大変素敵な方でした。
 一夫多妻、私のこれまでのモラルでは判断しかねる事でしたが、私自身がその家族に囲まれた時、そこには大家族の愛のみが溢れ、幸福に満ち、その家族の笑顔に巻き込まれ、一夫一妻の価値観、自分の文化の価値判断で、全く異なった文化、宗教の人々を見ている自分に気がつきました。一夫多妻という長い歴史のなかに育まれた文化、習慣。それは異なった生き方の人間が簡単に入り込み関与する事ではないと気が付きました。

 モロッコで出会った多くの女性。特にこの3人は私の心に残った女性でした。彼女たちのお蔭で、視点を変えて物事の価値観を考えてみる事の大切さに気が付きました。大切な体験をさせてくれたモロッコの女性たちに心から御礼申し上げます。
 どうも有り難うございました。

       
日本館スタッフ 吉村 和美 記

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