■実践する合気道

私は合気道を初めて4年目になります。今年の春に初段になったばかりです。そんな私に私の道場の先生から、アメリカに合気道留学してみないか、というお話をいただきました。運良く9月中だけ大学の夏休みで丸々空けることができたので、こんな機会は滅多にないと思い、日本館への短期研修を決意しました。日本館で合気道を学ぶのは当然ですが、それ以上に若いうちに異文化で生活をし、多くを見聞きし、広い見識をもつことが合気道の稽古以上に私の人生の糧になると思ったのです。一人で海外に行くのは初めてなので何事も経験と思い、飛行機も直行便ではなく乗継を利用するなどもしました。大学に入って3年間はまるで英語の勉強をしていなかったので英語はほとんど話せませんでしたが、まあどうにかなるだろうという適当な気持ちで乗り込んでいきました。しかし時には大胆というか向こう見ずな気持ちも必要だと思います。

日本館の合気道と私の道場の合気道のスタイルはかなり違うので初めはかなり途惑いましたが、多々ある合気道のスタイルのどれでもできるようになることが必要だと私の先生から教えられていたので、すんなりと吸収することができました。本間先生は稽古において単に技術云々だけでなくその技から思想や物事の考え方にどう発展できるかといったお話をよくされました。そのような指導の仕方をされる先生は非常にめずらしく、私の望んでいた合気道のその先を学ぶことができ、とても為になり嬉しく思いました。また日本館は指導の先生が多くいらっしゃるので、多種多様な方面から合気道を学ぶことができ、稽古面ではこれ以上ないほど充実していました。生活面においては先に内弟子入りしていたイタリア人のルカとコラド、日本人の宏美にいろいろ教えてもらいながら仲良く連帯感を持って生活することができました。会話を重ねることで英語を学び、またイタリアの文化なども教えてもらったり、くだらない話をしたり、とても楽しい時間を過ごすことができました。稽古時間は4時から9時までなので、日中に特に仕事がないときはデンバーのダウンタウンに買い物に行くなどもできました。また私の滞在期間が短いということで本間先生が頻繁に私を連れ出してくれて、国際運転免許証を取得していたので私が運転してドライブしたこともありましたが、本間先生を乗せての運転でしたので、大変緊張した思い出があります。ロッキー山脈の大自然を満喫することができ、私にそのような機会を多く与えていただき本間先生には本当に感謝しています。

日本館での生活が始まって数日が立った時に本間先生からタイ行きのお誘いをいただきました。日本館の活動のひとつで、カレン族のビレイさんという方が子供のための学校(ビレイハウス)を建設するということで、それのサポートにいくということでした。これを逃したら二度とそのような場所に行く機会はないと思い、是非お願いしますと志願しました。本間先生も若いうちにいろいろな体験をするべきという考えをお持ちでしたので、快諾していただくことができました。飛行機で日本上空を越え、タイの首都バンコクから車で5時間ほど西に進んだところの山奥のさらに脇道に入ったところにカレン族の村がありました。村というにはあまりに小さく、竹などで組んだ家が2〜3件と昨年建設した協会がひとつあるだけで、悲惨なカレン族の歴史の名残を少し感じました。そこでの作業は1週間だけの短い期間で、素人なので当然専門的な作業ではなくブロックや土砂などを運んだり、他の方のサポートをするなどしかできませんでしたが、現地の人々と交流し、タイとカレン族の文化を体感することができました。最終日には日本館メンバーへの感謝を表す催しものが開かれ、現地の人に受け入れられていることが実感でき、先生が提唱するただ互いの文化の違いを示す交流ではなく、現地の人に倣う”文化直流”が達成された瞬間だったと思います。ビレイハウスは12月にオープニングセレモニーが行われる予定で、私は行けませんが、いつの日か再び正式な形で訪れたいと強く思いました。

アメリカでもタイでも本間先生は私に多くの話をお聞かせ下さいました。翁先生のお話や合気道の歴史と終戦の関係性など、本間先生自ら調べ、体験した話ばかりで、先生以外誰もしらないであろう大変貴重なお話を聞くことができ、とてもためになりました。その多くの話の中でも先生が仰っていた、”合気道を実践する”というのが一番私の心に響きました。”合気道をただ道場の中で終わらせるだけでは二流もいいとこ、道場の外で表現してこその合気道である”という本間先生の考え方は和合を旨とする合気道の真のあり方であると思います。それをデンバーでのホームレスへの炊き出しであったり、今回のビレイハウスのミッションであったり、他の様々な活動こそが本間学先生の合気道の実践であると現場で教えていただくことができました。そのような考え方は本間先生だけでなく、もちろん合気道をしている人だけでなく、万人が持つべき考え方で、いわば人生の表現でもあると思います。その重要性をはっきりと認識できただけでも今回の日本館に来た意味は限りなく大きな意味がありました。

1か月弱あったこの研修もあっという間に終わってしまいました。本当に短い期間でしたが、長年なにかをしていても絶対学ぶことができない内容が凝縮された一か月でした。日本にはエネルギーを持て余している若者がごまんと埋もれています。最近の若者は〜なんて言われたりもしますが、驚くほど素晴らしい人も沢山知っています。日本館は合気道道場なので合気道をしている人限定ですが、もっと多くのやる気ある若者に本間先生という触媒に触れて欲しいと願っています。そうすれば日本はもとより世界中がさらに良い方向に向かうための人材が多く輩出されることでしょう。何かの縁で本間先生に触れた私は今後どう歩んでいくのか私自身楽しみでもあります。一期一会は本当に面白いものです。私の日本館で学んだことはこれから実践されていくのでしょう。最後に本間先生をはじめ、私と触れた人すべてに感謝を申し上げます。感謝してもしきれないほどでもこれ以上の言葉がなくて残念でなりません。本当にありがとうございました。

       遠藤 駿

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